妊娠と糖尿病・甲状腺疾患
妊娠と糖尿病・甲状腺疾患

妊娠は、女性の体に大きなホルモン変化をもたらします。その過程で、もともと問題のなかった血糖値や甲状腺の機能が乱れることがあり、妊娠中・出産後の母体と赤ちゃん双方に影響を及ぼす可能性があることが知られています。
「妊娠糖尿病」や「妊娠中の甲状腺疾患」は、産婦人科との連携が不可欠な一方で、糖尿病内科・内分泌内科での専門的な管理が非常に重要です。当院では、妊娠を希望している方・妊娠中の方・産後の方を対象に、血糖管理や甲状腺機能のフォローアップを行っています。
「妊娠中だから薬を飲めないのでは」「何を気をつければよいのかわからない」という不安をお持ちの方も、ぜひ遠慮なくご相談ください。
妊娠糖尿病(GDM:Gestational Diabetes Mellitus)とは、妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない血糖値の異常のことを指します。妊娠前からの糖尿病(糖尿病合併妊娠)とは区別されます。
日本産科婦人科学会の定義では、妊娠中の75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)において、空腹時血糖92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のいずれか1点以上を満たす場合に診断されます。
発症頻度は妊娠全体の約7〜9%とも報告されており、決して珍しい状態ではありません。しかし適切な管理が行われない場合、母体・胎児の双方にさまざまなリスクをもたらす可能性があります。
妊娠糖尿病を放置・管理不十分のまま継続すると、以下のようなリスクが高まるとされています。
母体へのリスク
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)・帝王切開率の上昇・産後に 2 型糖尿病へ移行するリスク(生涯を通じて約 50%との報告もあります)
赤ちゃんへのリスク
巨大児(難産・肩甲難産のリスク)・低血糖・黄疸・呼吸障害・将来の肥満や糖尿病リスクの上昇
逆に言えば、適切な血糖管理によってこれらのリスクを大幅に低減できることが示されています。
妊娠糖尿病の治療の基本は食事療法と血糖のセルフモニタリングです。
食事療法
急激な血糖上昇を避けるため、1日の摂取エネルギーを妊娠前の体重・活動量に合わせて調整し、炭水化物の質・量を管理します。分食(1日3食を5~6回に分けて食べる)が血糖の安定に有効とされています。
血糖の自己測定
食前・食後の血糖値を家庭で測定し、記録を産科・内科医と共有します。
運動療法
医師の許可のもと、妊娠中でも安全な軽い有酸素運動(ウォーキングなど)が血糖コントロールに有益とされています。
インスリン療法
食事・運動療法だけで目標血糖値(空腹時 95mg/dL 未満、食後 1 時間値 140mg/dL 未満など)に達しない場合は、インスリン注射による治療が行われます。妊娠中は経口血糖降下薬の多くが安全性の観点から使用を避けることが一般的です。
妊娠前から1型・2型糖尿病と診断されている方が妊娠する場合を「糖尿病合併妊娠」といいます。この場合、妊娠前からの厳格な血糖管理(HbA1c 6.5%未満が推奨されることが多い)が、先天異常・流産・早産などのリスク低減につながるとされています。
妊娠を希望している糖尿病の方は、できるだけ妊娠前から内科・糖尿病内科に相談し、血糖コントロールを最適化することが重要です。当院では、妊活中の血糖管理・産婦人科との連携についてもご相談いただけます。
甲状腺ホルモンは、胎児の脳・神経系の発達に欠かせない重要なホルモンです。妊娠中は甲状腺への需要が高まるため、もともと甲状腺機能に問題のなかった方でも、妊娠を機に異常が顕在化することがあります。
妊娠中に甲状腺ホルモンが不足すると、母体の倦怠感・浮腫・便秘・体重増加などに加え、胎児の神経発達に影響を与える可能性が指摘されています。橋本病(自己免疫性甲状腺炎)を持つ女性では、妊娠中に甲状腺機能が低下しやすいとされており、定期的なTSH・FT4のモニタリングが重要です。
甲状腺機能低下症の治療に用いるレボチロキシン(甲状腺ホルモン薬)は、妊娠中も安全に使用できる薬とされており、適切な用量管理のもとで継続することが推奨されています。
バセドウ病を持つ女性が妊娠した場合、または妊娠中にバセドウ病が発症した場合は、母体の動悸・体重減少・胎児への影響(胎児甲状腺機能亢進・低出生体重など)に注意が必要です。妊娠中に使用できる抗甲状腺薬の選択・用量管理は内分泌内科の専門的な判断が必要であり、産婦人科との緊密な連携のもとで治療を行います。
出産後も注意が必要です。
産後甲状腺炎
出産後3~6ヶ月ごろに甲状腺の炎症が起こり、一時的な甲状腺機能亢進(動悸・体重減少)に続いて機能低下(倦怠感・抑うつ)が生じることがあります。産後うつと症状が似ているため、見落とされるケースもあります。産後に体調不良が続く場合は甲状腺機能の確認をお勧めします。
妊娠糖尿病後の管理
妊娠糖尿病と診断された方は、産後6~12週に75gOGTTを行い、糖尿病・境界型への移行がないか確認することが推奨されています。その後も年1回程度の定期的な血糖チェックを継続することが大切です。
血液検査(血糖関連):空腹時血糖・HbA1c・インスリン分泌能の評価、必要に応じてOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)を行います。
血液検査(甲状腺関連):TSH・FT3・FT4・抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体・TRAbを測定します。
甲状腺超音波検査:甲状腺の形状・大きさ・炎症所見・結節の有無を確認します(必要時)。
産婦人科との連携:妊娠中の方は、産婦人科主治医と情報を共有しながら、当院で内科的管理を行います。
妊娠中の糖尿病・甲状腺疾患は、母体と赤ちゃんの両方に影響する可能性がある一方で、適切な管理によってリスクを大幅に低減できることが知られています。「妊娠中だから仕方ない」と我慢せず、糖尿病内科・内分泌内科の専門的なサポートを受けながら、安心して妊娠期間を過ごしていただきたいと思います。
当院では、妊娠前・妊娠中・産後それぞれの段階に応じた血糖・甲状腺管理を、産婦人科と連携しながら行っています。北千住周辺にお住まいの方・お勤めの方は、ぜひお気軽にご予約・ご相談ください。
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個々の症状・治療法については必ず医師にご相談ください。妊娠中の治療・薬の使用については、必ず産婦人科の担当医にご確認ください。
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